変形性関節症とは?変形性関節症は猫の破行(足を気にする様子)の最も多い原因と言われています。ただしこの変形性関節症は、病気を隠す猫の特性からか、飼い主様には気づかれにくい疾患です。実は1歳以上の猫ちゃんは74%が既に変形性関節症があり、12歳にもなるとその罹患率は90%と言われています。症状少しジャンプの高さは低くなったけど、元気でよく歩くもう歳だししょうがない食欲はあるし、明らかに痛がる様子はない なども実は変形性関節症の症状である可能性があります。しかしながら、通常の診察ではこの変形性関節症は見つけにくいのも事実です。理由としては診察室では台の上にいて多くの猫ちゃんは動かない飼い主様の主訴にない病院の緊張で痛みがあっても隠してしまう などが挙げられます。(家であっても明らかな症状を出す子は40%ほどです)検査触診やレントゲンで診断します。しかし今までは診断をしても画期的な治療がないことが問題でした。消炎鎮痛剤は腎臓に負担がかかり、腎臓病が多いと言われている猫ちゃんにとって最適な治療とは言い難いところがありました。慢性的に使えるものとしてご案内をしていたものの多くが、消炎や関節に良いとされるサプリメントであり、明らかな痛みがある子に対しては著効しないことも多くありました。(その場合は数日間消炎鎮痛剤を使用することもあります)そこで近年発表された薬剤がソレンシアという薬です。ソレンシアソレンシアはフルネベトマブという成分からなり、神経成長因子(NGF)の働きを阻害します。神経成長因子(NGF)が増えると、痛みの受容器が増加します。つまりNGFのせいで痛みを感じやすくなってしまうのです。ソレンシアはNGFと結合することでNGFの働きを抑制し、結果痛みの受容体を減らします。症例1猫 雑種去勢雄 20歳元々皮下点滴で通院中でした。年齢的なこともあり、段差やベットに上がるスピードも時間がかかりよろよろしているとのことでソレンシアをご提案しました。注射を打ってみたい!とのことでしたので、早速注射を打って経過を見ていくことにしました。経過坂を上がるスピードも改善が認められ排便の後ダッシュもできるようになり驚いたとのこと。ふらつきは残るが、痛みなどはなさそうとのことでした。今も継続して投薬を実施しております。考察神経的な効果(神経の回復によるふらつきの改善など)は認められませんが、痛みによる歩様障害は改善があると考えられました。症例2猫 雑種去勢雄 13歳4ヶ月昨夜と今日の朝、足に力が入らないような様子を見た。すぐに戻りはしたが心配とのことでご来院されました。来院時に明らかかな神経症状は認められず、眼振や斜頸も認められませんでした。背部圧痛もなく、触診上は明らかなヘルニア所見もありませんでした。検査レントゲン検査を実施したところ、膝関節に関節ねずみ(関節内の骨遊離体)が認められ変形性関節症が確認されまた、第7腰椎から第1尾椎にかけても骨棘の形成があることから、変形性脊椎症が生じているとわかりました。【レントゲン:膝関節内に遊離骨片が確認できる】【レントゲン:角度を変えると見え方も変わってくる】【レントゲン:椎体の腹側に骨棘が形成されている】神経学的検査では明らかな問題がないことから、関節炎(膝)を第一に考え、ソレンシアをご提案し注射を行いました。経過ソレンシア投与を定期的に実施しておりますが大きな副作用もなくまた足に力が入らないような症状もあれ以降認められないとのことでした。以上のことからソレンシアは猫の変形性関節症、関節炎に効果ありと判断できます。予防もちろん変形性関節症の予防も大事です。体重過多の猫は破行(歩き方がおかしい)という主訴で病院に行く確率が通常の猫と比べて2.7倍高い肥満の猫はさらに高く4.9倍という結果でした。J M Scarlett et al;J AM Vet Med Assoc. 1998 Jun 1;212(11):1725-31.今までのサプリメントなどは効果がなかったのか?そんなことは全くありません。変形性関節症による痛み、運動障害を有する猫に対しEPAやDHA、緑イガ貝、グルコサミン、コンドロイチンなどを添加した食事の効果としてそれらを添加した群では添加しなかった群と比べ活動量が優位に増加したとの報告があります。B.D.X.Lascelles et al ;J Vet Intern Med 2010;24:487-495ソレンシアも今現在では注射のみの製剤です。そのため月に一回程度の通院が必要であることは少しデメリットかもしれません。猫ちゃんの生活を少しでも快適にするために体重管理やサプリメント、必要であれば通院をご検討ください。