ウサギの乳腺腫瘍近年ではウサギがペットとして人気になってきたことや、寿命が伸びてきたこともあり、ワンちゃん、猫ちゃん同様、ウサギの乳腺腫瘍を診る機会が増えました。しかし、ウサギの乳腺腫瘍はまだまだ解明されていないというのが現状です。乳腺腫瘍には良性と悪性があり、悪性であれば、ウサギの余命を著しく短くすると言われています。どういったウサギにできるの?乳腺腫瘍は高齢のうさぎによく発生します。その平均年齢は約5歳前後です。基本的にメスのウサギにできますが、オスに乳腺腫瘍ができたという報告も多く、人や犬猫に比べて、オスでの発生確率は高いとされています。原因は?今現在、はっきりとした原因はわかっていません。動物の乳腺組織は性ホルモンの影響を受けるとされており、ウサギもそうだと考えられています。性ホルモンの影響で子宮疾患になったうさぎ59頭中、4頭で乳腺癌が認められるという報告もあり、また別の論文では47頭の子宮疾患を持つウサギの15頭に乳腺腫瘍が見つかったと報告しました。オスのウサギでも乳腺腫瘍の発生が比較的多いことから、原因が性ホルモンのみではない可能性があります。なお、遺伝性の強さはわかっていません。症状乳腺腫瘍は腹部のしこりとして確認されることが多く、大きくなければ出血などもなく、痛みや違和感を覚えることも少ないとされています。乳腺炎や乳腺の過形成、嚢胞など、良性の腫瘍と悪性の乳腺癌を見た目で鑑別することはできません。良性の乳腺腫瘍も悪性の乳腺癌も、腫大化のスピードはゆっくりだと言われています。残念ながらウサギの乳腺腫瘍は乳腺癌が圧倒的に多いと言われており、肝臓や肺、リンパ節に転移しやすく治療後も警戒が必要です。診断最終的な診断は乳腺腫瘍を摘出し、病理検査を行うことで確定します。しかし摘出には手術が必要となるため、ウサギの負担を考えると簡単に決断できないことも多々あるかと思います。手術の前段階として、乳腺のしこりに針を刺す細胞診を行い、感染などを起こしていないか、しこりが脂肪組織や他の腫瘍の可能性がないかを見て行きます。また転移の確認のために胸のレントゲン検査を実施します。治療治療の基本は腫瘍の摘出となります。しかし、転移がすでに見られる場合は乳腺腫瘍の摘出による寿命の変化はありません。腫瘍が大きくなり、床と擦れて自壊することを防ぐことは可能です。少し難しい話になりますが、性ホルモンの受容体がある乳腺腫瘍であれば抗エストロゲン剤が効果的顔知れませんが、効果を立証する報告は今のところ挙げられていません。症例うさぎ ホーランドロップ8歳 雌2~3週間前から腹部にしこりがあるとご来院されました。しこりの大きさは16.4×20.4×14.2mmで、筋肉との固着はなく、近くのリンパ節の腫れもありませんでした。検査細胞診検査、レントゲン検査を行いました。細胞診検査は、針をしこりに刺し細胞を採ってくる、麻酔を必要としない検査です。細胞は上皮系の細胞であり、乳腺腫瘍の可能性が高いと診断できました。また、レントゲンの検査で肺への転移を確認し、現時点で疑わしいものはないと判断されました。後日、乳腺腫瘍の摘出を行い、同時に避妊手術を行いました。【写真:腫瘍を摘出しているところ】【写真:摘出した腫瘍】【写真:摘出した卵巣、子宮】結果乳腺腫瘍:乳腺癌子宮:子宮粘膜過形成卵巣:問題なし【画像:本症例の病理組織結果】経過この症例は現在転移もなく、腫瘍も取り切れているとの病理結果だったため経過観察としています。