前十字靭帯とは膝にある靭帯です。この靭帯が切れてしまうことを、前十字靭帯の断裂といい、部分的に断裂する場合や、完全に断裂することがあります。人と違い、犬では激しい運動中などに靭帯が断裂することは稀と言われており、多くは加齢や肥満などにより起こると言われています。今回はそんな前十字靭帯の断裂について詳しく解説していきます。治療法や愛犬の足に不安がある飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、前十字靭帯断裂についての理解を深めていただければと思います。犬の前十字靭帯断裂とは前十字靭帯は以下の働きをしています。膝の過度な伸びを予防脛の足が内側に回転することを予防脛の足の前方への動きを抑制前十字靭帯が断裂すると、これらの働きができなくなり膝の関節が不安定になります。前十字靭帯が切れた症例の反対側の足をレントゲンで撮影した際、Fat Pad sign(ファットパッドサイン)という膝の脂肪が腫れている所見が得られた場合は約10〜60%で両方の足の靭帯が切れてしまうという報告もあります。前十字靭帯が切れやす原因前十字靭帯が切れやすい原因と言われているものがいくつかあります。脛の骨の角度肥満ホルモン異常コラーゲンの異常糖尿病免疫性の関節炎 などホルモン病の犬が必ず靭帯の断裂を起こすわければないですが、前十字靭帯の断裂を起こす場合はホルモンや糖尿病の検査を実施した方が良いでしょう。検査方法検査方法身体検査レントゲン検査CT検査などがあります。一般的には身体検査やレントゲン検査で十分であることも多いですが、必要によってはCT検査など、より精密な検査が必要です。前十字靭帯断裂の治療法前十字靭帯が切れた場合は保存療法、外科療法に分かれます。保存療法前十字靭帯の保存療法は痛み止め安静サプリメント体重管理環境の整備などがあります。痛み止めには消炎鎮痛剤を使用します。安静は部分的な断裂時に選択することが多いです。サプリメントはグルコサミンやコンドロイチン、緑イ貝、オメガ脂肪酸などを使用し膝の炎症を抑えます。前十字靭帯が断裂する犬の中には肥満である場合も多く、飼い主様には体重管理をしてもらうことがあります。また、滑りやすいフローリングや段差は膝に負担がかかりますので滑り止めマットやシートを敷いていただき、段差部分には緩やかな坂になるような工夫をしていただきます。外科療法外科療法には関節包外制動術(人工靭帯)脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)などがあります。最近では術後の関節の安定性や体重の掛け方など、術後の機能回復が関節包外制動術よりもTPLOの方が良く、飼い主様の満足度も高かったという報告があります。実際の症例症例は2歳6ヶ月の避妊済みのドーベルマンです。「1週間くらい前から右の後ろ足を挙げている。明らかな痛みはない。」とのことでご来院されました。レントゲン検査を実施したところ、膝の靭帯部分の脂肪が腫れている(Fat Pad Sign)ことがわかりました。触診、レントゲンから前十字靭帯の部分断裂が疑われ、体重も30キロを超えておりもう片側の足に負担がかかること残りの靭帯もいずれ断裂することが予想される以上により、手術は早めにしたほうが良いだろうと判断しました。✳︎これより手術の画像が出ますのでご注意下さい術後は徐々に手術をした足も力が入るようになっています。まとめご紹介した症例は手術とは逆の足もFat Pad Signがあり、逆足も手術を検討しています。今のところ症状はないですが、いずれ症状が出てくる可能性が高いと飼い主様にもお話ししています。前十字靭帯が断裂すると、その足を使うことが難しくなり、筋肉が弱くなります。問題のない側の足にも負担がかかるため、片側の靭帯が切れやすくなることもあります。前十字靭帯が傷ついた時に、明らかなに悲鳴をあげて痛がる犬もいれば、普段と変わらない様子で足をあげている犬もいます。足をあげている時間が長い場合は、どこかを損傷している可能性が高く、早めにご相談いただければと思います。当院ではパテラ(膝蓋骨内方脱臼)や大腿骨頭切除(FHO)、骨折整復、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)などの整形手術も実施しております。「セカンドオピニオンで話を聞きたい」「本当にうちの愛犬に手術は必要なの?」などあれば、一度ご相談くださいね。