骨髄腫瘍関連疾患(MRD)は形質細胞が腫瘍化することにより起こります。形質細胞は免疫を司る細胞で、人は形質細胞の腫瘍の大半が骨髄の中で発生します。人での名称をそのまま流用しているので、猫でも形質細胞の腫瘍を骨髄腫瘍関連疾患と言っています。しかし、猫では骨髄での発生は形質細胞腫瘍の全体の1/3で、2/3は骨髄以外で発生します。今回はそんな稀な病気であるMRDについて実際の症例を交えつつ、解説していきます。猫の骨髄腫瘍関連疾患(MRD)猫の骨髄腫瘍関連疾患(MRD)は猫の悪性腫瘍の1%未満で、血液の悪性腫瘍の中でも1.9%と稀な疾患です。猫のMRDは以下の7つの病態に分かれます。骨髄腫皮膚の髄外性形質細胞腫皮膚以外の髄外性形質細胞腫骨の孤立性形質細胞腫IgMマクログロブリン血症免疫グロブリン産生性リンパ腫形質細胞性白血病MRDの診断には10%以上のBM形質細胞の増加5%以上の異形性形質細胞の増加パラプロテイン血症BJタンパク尿内臓の関与のうち、2つ以上を満たすこととされています。ある報告では50頭中ベンガルが22頭、メインクーンが2頭と種特異性があり、64%が雄で発症年齢の中央値は12歳でした。MRDの症状症状はこれといった分かり易いものは少なく、多い順に元気消失食欲不振体重減少多飲多尿脱水腹部に触知可能な臓器の肥大嘔吐など、他の病気でもよく見られる症状が大半でした。MRDの余命MRDの猫の余命は、その病気の犬の余命よりも短いと言われており、5日〜12.3ヶ月という報告があります。また、別の報告では無治療だったMRD猫と治療をしたMRD猫の生存期間の中央値(その病気の50%の症例がなくなるまでの期間)は122日で、有効な治療をした猫では、生存期間中央値は315日でした。MRDの治療シクロホスファミド、コルチコステロイドの併用が効果・副作用の面からも、今のところ最も有用だとされています。認められた副作用は好中球減少貧血血小板減少胃腸障害 などで、上記の治療を受けた23%がこれらの副作用の何らかがありました。他にもメルファラン、コルチコステロイドの併用も高い効果が認められていますが、副作用が多いとのこ報告もあり、治療中は警戒が必要です。実際の症例ベンガル11歳4ヶ月避妊メス最近血尿をしているとご来院されました。腹部レントゲン検査では結石などは見当たらず、腹部の超音波検査では膀胱粘膜の不整が確認されました。また、右側肝臓〜十二指腸に不整領域が認められました。当日は膀胱炎の治療を実施し、後日肝臓〜十二指腸の不整領域の精査を行うこととしました。後日の検査にて超音波で不整領域の拡大、胸部レントゲンで肺転移が疑われました。そのため飼い主様と相談しCT、細胞診検査を他施設にて実施していただきました。結果形質細胞腫とその腹膜播種を疑う との診断結果でした。細胞診の結果、脾臓に明らかな転移は確認されませんでした。この症例はご家庭の事情から抗がん剤治療が難しいとのことで、ステロイドの治療をおこなっております。現段階では症例は元気で、食欲なども問題ありません。まとめ猫のMRDは比較的発生率が少なく、そのため治療などもまだ確立に至ってはいないのが現状です。形質細胞という血液由来の細胞であることから、手術による治療はあまりなく、抗腫瘍療法となる内科治療が一般的となります。抗がん剤の使用にはご家庭の状況などを含め、しっかりと獣医師とご相談ください。