ハリネズミは日本で最も人気のあるペットの一種ですが、悪性新生物の発生が多い種であることでも有名です。報告では、組織微病理学的検査に出された組織の約60%が腫瘍と診断されました。今日は、そんなハリネズミに見られる腫瘍の一つである、組織球性肉腫を疑った実際の症例を交えつつ、解説していきます。ハリネズミの腫瘍ハリネズミは腫瘍の多い動物種で子宮腫瘍口腔内扁平上皮癌乳腺腫瘍リンパ腫線維肉腫組織球性肉腫 などがよく見られます。組織球性肉腫とは?組織球性肉腫は間質性樹状細胞またはマクロファージに由来する悪性新生物です。この新生物は脾臓、リンパ節、骨髄、肺、中枢神経系、皮膚などの様々な臓器で発生します。ハリネズミの組織球肉腫はその細胞の形から、円形・多角形細胞タイプと紡錘形細胞タイプに分かれます。円形・多角形細胞タイプ発症年齢は平均2歳2ヶ月一般的な症状は元気がない食欲の低下下痢排泄量の低下 などで、約80%の症例でお腹の中にがん細胞が播種していました。紡錘形細胞タイプは発症年齢はが2歳11ヶ月一般的な症状は皮膚でのしこりの形成でした。形成場所は体頭部関節などでした。余命は?円形多角形細胞タイプは紡錘形細胞タイプとは違い、内臓に腫瘍を作り、症状も全身状態が悪くなることが多くなります。そのため、余命も短くなることが多く、円形多角形細胞タイプは診断から生存期間までの日数は27.5日だったという報告があります。紡錘形細胞タイプは、少なくとも25日以上、91日、96日、129日、359日という報告もあります。治療法は?組織球性肉腫の治療は非常に困難であると予想されます。理由は、気づいた時には転移がある可能性が高い体が小さく麻酔のリスクがある内科治療で有用な情報がないなどが挙げられます。皮膚にできた腫瘍で、かつ明らかな転移が認められない場合は手術をすることで完全摘出が可能な場合もあります。実際の症例2歳6ヶ月のメスのハリネズミ3日前から元気食欲の低下があり、お腹も張っていると来院されました。緑の下痢もしているようでした。体重445g見た目でも左腹部に張りが認められました。ハリネズミは検査に沈静・麻酔が必要であることをご説明し、まずは対症療法から実施することとしました。2日後には食欲も改善し、通常べんの排便も認められました。その10日後腹部の張りが改善しないこと、後肢がうまく動かせないとしてご来院されました。食欲はあり、排便・排尿もあるとのことでした。飼い主様と相談し、沈静をかけ検査を進めることとしました。【写真:酸素と麻酔をかいでいる】レントゲン検査では明らかな骨折や脊椎の損傷などは認められませんでした。【写真:沈静下でのレントゲン検査】胸部は肺野が白く、可能性として腫瘍の転移胸水の貯留肺水腫などが考えられました。腹部は臓器が見づらく、超音波検査を実施しました。【写真:沈静がかかっており、酸素吸引をしながら超音波検査をしている】超音波検査では腹水が確認され、肝臓に不整な腫瘤形成が認められました。腹水を抜去し、性状検査を実施したところ、赤血球とマクロファージが多数出現しており、明らかな細菌は確認されませんでした。この症例は組織球性肉腫を第一に疑い、今後は少しでもQOLを高めていけるような治療をしていきます。まとめ本症例は円形多角形細胞タイプで見られる所見と相違なく、・細胞も丸い・腹腔内臓器(肝臓)に腫瘤を形成・同様の症状・腹腔内(脾臓)や肺にも転移の可能性があるなどの所見を得たことから、今後の余命は厳しいものになる可能性があります。ハリネズミは検査に沈静や麻酔が必要であり、そのハードルは他の動物よりも少し高くなってしまうのが現実です。しかし、2歳という年齢でも腫瘍ができる可能性はあり、食欲の低下が実は大きな病気である可能性もあります。お家でお気づきのことがありましたら、早めにご相談ください。